2024年5月19-22日 US/New Orleansにて開催されたATD24 。世界最大規模の人材育成国際会議ATD International Conference & Expo(通称:ATD-ICE)現地で参加してきました。今年のテーマは"Recharg Your Soul".
参加者は約9,000名、日本からは159名の参加でした。私はATD MNJの理事として、現地では毎日ダイジェストのシェア会を開催しました。自分自身が参加したセッションだけではなく、他の参加者のセッション内容や感想をお伺いし、その場で意見交換ができるのも、現地参加の大きなメリットのひとつです。
カンファレンス会場、ニューオリンズの様子
ATD(Association for Talent Development)は、L&Dグローバル最大級の組織で従業員の知識とスキルを開発する人々を支援する専門的な会員組織です。
300以上のセッションの中からポジティブ心理学および脳神経科学、コーチング カルチャーに関連するセッションを中心にご紹介します。そして最後に今年のトレンド・大きなテーマについて考察したい。
2日目からスタートした今年のKey Note(基調講演)より:
3名の中から、日本でもお馴染みのニューヨーク・タイムズベストセラー作家 Daniel Pink(ダニエル・ピンク)の基調講演についてご紹介したい。
レジリエンスを超えて: 強い文化への新たな道
世界がパンデミックから脱却するにつれ、あらゆる組織が業務を再検討し、優先順位を再考している。 自分たちは何のために存在するのか? 次に来るものをどうナビゲートすべきか? そして、人々が最高の仕事をそして最高の自分でいられるような文化を、どのように築けばよいのだろうか?
What’s Next?
ダニエル・ピンクは、私たちは今、波乱に満ちた“いくつかの問い”を整理する段階にあるとの見解を示した:
•どのような仕事を一人で行い、何を一緒に行うべきか?
•何を学び、どこで学び、いつ学び、どのように学ぶのか?
•家庭生活を壊さずに仕事を成功させるにはどうすればいいのか?
•オフィスとは何のためにあるのか?
•このような相反する環境の中で、私たちはどのように前進すればいいのか?
•次が何なのか誰にもわからない状況で、どう準備すればいいのか?
また、ATD CEO トニー・ビンガムや今年のATD24チェアマンからは、L&Dに携わる我々に向けて改めてATDのVISION:Create a World That Works Better につながるメッセージをくれた。
変化”は常に人材開発領域における前兆
組織の競争力を維持するためには、従業員が適切なスキルを身につける必要がある。スキルギャップに先んじるために何ができるかを考える必要がある。
AIの登場により、わたしたちの分野は仕事のやり方の大きな変化の最前線に立っている。
その変化を起こすのはL&Dに関わる我々である。人材開発が最初のキャリアではないと答えた人々に、その変化のきっかけとなったものについて尋ねた。
ー「他者の人生に変化をもたらしたかったから」
今年の大きなテーマの1つ
テクノロジーと人間の共存: GenAIの役割とその影響
ChatGPTに代表されるジェネレーティブAIは、私たちの日常生活やビジネスにおいて、効率を高めるツールとして注目されている。
しかし、その一方で人間自身の役割やスキルの変化、倫理的な課題も浮上しています。
ジェネレーティブAIをどのように活用し、人間と共存させるか?
この1年で一気に加速し、スピードは増し、Gen AI 活用フェーズの議論に入った。
The Distracted Mind- 注意散漫な心
- How Technology Changes Memory and Learning_Anastasia Dedyukhina
我々はひとつのことに集中できないことが増えている。
では、
私たちはどれくらいの頻度でスクリーン上の活動を切り替えているのだろうか?
•2004年:2分半ごと(あらゆる活動は3分5秒ごと)
•2012年 - 75秒ごと
•2016~2021年:44~50秒
どんどん短くなってる!!
衝撃だったのは、スマホの存在自体が認知能力を低下させる、ということ。ちょっと怖い。
テーマ2:
ポジティブ心理学×脳神経科学
多くのセッションの中で、ニューロサイエンス、神経科学のエビデンスを活用するセッションが益々、増えたと感じました。
私たちはEmotional Fitness Problem感情的フィットネスの問題がある。
ーThe Neuroscience of Psychological Safety and Teamwork-2_Torin Monet. & Paul J. Zak.
米国の成人の3人に1人がうつ病か不安症の症状を訴えており、その数は2019年の約3倍である。このような現状を踏まえてImmersion(没頭)という名で、社会的経験に対する脳の評価システム を開発したのは、脳神経科学者 ポール・ザック。
過去20年間、人々が様々な種類の活動に参加している間の脳の反応を5万回測定。
Tuesdayというアプリとウェアラブルデバイスで、主に心拍数を測ることでドーパミンとオキシトシンが今、めっちゃ出てる!とか、今は普通など、リアルタイムで測定可能。
個人にとっては:
自分自身の感情的フィットネス、を継続的に測定できる。
どんな社会的経験が、自分の感情の波を作るのか?
アプリからは、ログをとっていくことで、
自分の感情の谷が訪れる2~5日前に警告を発し、感情のフィットネスを高めるための回復力リソースを利用することができる。
組織にとっては:
エモーショナル・フィットネスと企業文化の指標をわかりやすく表示。
エモーショナル・フィットネスの一貫したKPIをみていくことができる。
実は私はポール・ザック氏とは以前から繋がっているので、アプリリリースを知って、ATD参加前から使っています。
かなり楽しいですよ〜。
EQとウェルビーイングの科学
EQの重要性- 「仕事の未来は職場のウェルビーイングである」
ーThe Science of Emotional Intelligence and Well-Being at Work_ Britt Andreatta
彼女は今年、ATDから素晴らしい功績を収めてきたソートリーダーとして表彰を受けています。脳神経科学を軸にした解説で毎年、彼女のセッションは大人気であり、彼女のLinkdinのEQコースは過去からずっと定評のあるコースのひとつ。
今年のセッションは、EQが重要!というメッセージ。
EQは、パフォーマンス業績への影響が大きく、従業員のウェルビーイング、リーダーシップ育成を促進することの大きな鍵を握るとして、セッションの冒頭には
様々なデータに基づいた職場、従業員のウェルビーイングについて紹介。
「仕事の未来は職場のウェルビーイングである」職場、従業員のウェルビーイングはまさに私の専門領域ポジティブ心理学ど真ん中であり、私にとっては非常に馴染みのあるデータやレポートのシャワーでしたが、
例えば、Gallup社のリサーチデータ、マッキンゼー社やデロイトのレポート、フォーブスの記事など・・いつもの豊富なデータに基づく怒涛の情報提供とBritt流の考察は今年も健全でした。
彼女曰く、結局のところ、ウェルビーイングとは、職場の毒性に対処することであり、そして人々に健康的な職場を作るためのツールを与えることなのです。
テーマ3:
コーチング カルチャー
コーチングセッションを効果的にするものは何か?
人間 vs AIコーチ
ーThe Neuroscience of Effective Coaching_Kenneth Nowack
14ヶ月にわたる調査研究結果をシェアしてくれたのは、脳神経科学者 ケネス・ノワック氏。
いくつかの研究で、AIコーチは、目標達成を支援する上では、人間のコーチと同等の効果があった。
調査では、テキストベースまたはボイスボット(音声ベースのチャットボット)を使用した。ボイスボットに対する満足度は、内向的なグループで高く、外交的なグループでは差は見られなかった。
人々は、感情的な問題に対するAIの応答は、人間の応答よりも共感的で、感情を察知するのに優れていると評価した。
回答は第三者評価者によって評価され、人間と比較して、AIは感情的なサポートを提供する際に優れた規律を示し、実用的な提案はあまりしないことがわかった。
メッセージの発信元が(人間ではなく)AIであることがわかると、受信者はあまり話を聞いてくれていないと感じた。
そんな調査研究結果を踏まえて、
効果的なコーチングセッションを実施するためにコーチは、人間のコーチは、何を知っておくべきなのか?
まず、我々の脳は怠惰なのである!習慣の産物なのである!ということ。 (※参考_ATD記事:What to Do About Lazy Brains_Mon Jul 31 2023)
だからどのように人間のコーチはクライアントに関わっていけばいいのか、
例えば、神経科学のデフォルトモードネットワークのアプローチをどのようにコーチングに活かすか、
など具体的なティップスを教えてくれた。
ところで、ケネス・ノワック氏は
私がATDジャパン代表を務めていたときに、過去にATDジャパンサミットに登壇していただいたところからご縁であり、
セッションのあと、ケネスから、最新の自分の論文を「よかったらご参考にー、」と送ってくれました。
まとめ:今年のトレンド・テーマについて
2つのトレンドが同時並行的に動いていると感じました。
「感情的不況」に突入した現在。
ひとつは、現在は職場のウェルビーイングの低さ、燃え尽き症候群の多さを特徴とする
「感情的不況」に突入しているということ。
次に世界を襲うのは「社会的孤立」というエピデミックだ(IPPAポジティブ心理学学会2023年)と言われている。
そして、もうひとつは、
AI,GenAIが普及するにつれ、EQのような強力な社会的スキルやコラボレーションスキルが最重要になる(WEFより)。
だから心理的安全性やエンゲージメントなどのキーワードは注目され、ある意味、日本でもバズるほどですが、もちろん、大事だが、それはベースであり指標にすぎず。
結局、職場のウェルビーイングと個人のウェルビーイングは何のためか?
それは、
我々は、機械ではなく、人間として”良い仕事“をしたいのだし、
そのために人間として学び、成長し、”より良い職業人生を歩みたい“と誰しもが強く願っているからだ。
ポジティブ心理学では、それを、人生はサバイブではなく、
可もなく不可もなく生きることを超えて、
スライブ(Thrive)な生き方、つまりイキイキと活力に満ちた良い生き方をしたいというすべての人が持つ人生に対するポジティブな欲求である、としています。
L&Dに携わる我々こそが、AIを使いこなして、脳神経科学のエビデンスベースドで、
従業員の成長支援に力を注ぐこと。
我々こそが、最前線に立つこと。
改めて私自身も心に誓ったATD24の参加でした。
<最後に>
来年ATD25はワシントンD,Cです!
私が理事をしているATDメンバーネットワークジャパン(ATD-MNJ)からのお知らせです。ATD-MNJではこの度、新たにメルマガを発行することになりました。
メルマガではATD25最新情報やHR全般に関する様々な情報を発信していきますので、
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